« そうだ モントリオール 行こう。 | トップページ | うちの3姉妹 »

「サヨナラ」ダケガ人生ダ

勧君金屈巵   君に勧む 金屈巵

満酌不須辞   満酌辞するを須ひず

花発多風雨   花発いて風雨多し

人生足別離   人生 別離足る

唐の詩人 于武陵の「勧酒」 という詩です。

井伏鱒二は『厄よけ詩集』の中で、次のような名訳を
残しています。

コノ杯ヲ受ケテクレ

ドウゾナミナミ注ガシテオクレ

花ニ嵐ノタトエモアルゾ

「サヨナラ」ダケガ人生ダ

この五言絶句が好きな理由は、色々な解釈ができる
ところ、言い換えれば読むときの年齢とか経験でまた
解釈が変わる点でしょうか。

花も咲けば、雨・風ではかなく散ってしまう
こともある。
人生とは別れることだ。
この瞬間は、酒を飲んで楽しく生きよう。
というのがおおまかな自己解釈です。

数年前オランダのビジネススクールに留学していたとき、
スタディグループのメンバーにアーミットというインド人がいました。

ディスカッションのときは、彼はいつもインド人特有の巻き舌英語
で自論をまくしたてていました。

とても理屈っぽく、決して自分の意見を曲げない。議論が沸騰
してくると、怒鳴るような口調になる彼のスタイルは他のメンバー
から疎まれていました。

しかし、そんな彼と私は年も近く、お互い子持ちであったことから
話が合い、大学のバーでビールを飲みながらお互いの家族のこと
や自分の国のことを話しました。

彼はインドで生産管理の仕事をしていて、「日本の技術やトヨタに
代表されるカイゼンなどの思想は実に素晴らしい」と、インド人の
彼に日本の素晴らしさを教わりました。

彼はインドに医師をしている奥さんと2人の子供を残して、はるばる
オランダに留学していたので、子供達と会えない事をいつも寂しがって
いました。

「お前は、子供達と一緒に暮らせていいなぁ」とよく言われましたが、
そういうときは、日頃の激しい口調の厳しい表情が緩み、父親の
顔に戻っていました。それを見る度に子を思う親の気持ちは万国
共通だなぁと妙に感心したりしました。

2年生になると、アーミットは交換留学制度を利用して、イギリス
に旅立ちました。イギリスにはインド人コミュニティがあるし、オランダ
より良い就職口が見つかると思ったのかもしれません。

ヘビースモーカーだった彼を、大学の玄関脇の喫煙コーナーで
見かけて「卒業式で、また会おうな」と言葉を交わしたのが最後の
会話となりました。

ある日、学長から全学生にeメールでアーミットの訃報が伝えられ
ました。

ある朝、いつまでも起きてこないのを不審に思い、起こしにいった
ルームメイトが、ベットの中で永遠の眠りについたアーミットを見つけ
ました。

訃報を聞いて最初、彼は家族を残してまでオランダに来て、
勉強したのに何故途中で旅立ったのだろう、バカ野郎と思いました。

しかし、振り返って考えると彼は僕らに何かを伝えるために来たの
だろうと思えます。クラスメイトとの衝突もありながらも、彼は我々
に言葉や経験で何かを残そうとしたのだろうと。

彼の遺族には、クラスメイトの寄せ書きのノートが渡されました。
そのノートの1ページに私が書いたのが、冒頭の漢詩です。

卒業式当日、全ての卒業生に修了証が渡された後、アーミット
の名が呼ばれ、彼に学位が授与されました。

その瞬間、クラスメイト全員が立ち上がり、敬意を表しました。
こんなクラスメイトに囲まれて勉強ができた自分は何て幸せ
だろうと思った瞬間でもありました。

今日、わが母校を受験していたK君から「合格しました」と
うれしい連絡がありました。そして、ふとアーミットのことを
想い出したのでした。

K君には、是非ともクラスメイトとぶつかりあって、貴重な
経験を積んでいって欲しいと思います。

        花ニ嵐ノタトエモアルゾ

        「サヨナラ」ダケガ人生ダ

|

« そうだ モントリオール 行こう。 | トップページ | うちの3姉妹 »

MBA留学」カテゴリの記事

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)


コメントは記事投稿者が公開するまで表示されません。



トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/505958/40187438

この記事へのトラックバック一覧です: 「サヨナラ」ダケガ人生ダ:

« そうだ モントリオール 行こう。 | トップページ | うちの3姉妹 »